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産後の骨盤矯正について

 巷で話題の産後の骨盤矯正。皆さんはなぜそんなことが言われているのか?そしてなぜ必要なのか?ご存じでしょうか?ここでは解剖学的、生理学的、運動学的、さらには物理的(?)など様々な観点から、妊娠中・出産時・産後にどのようなことが起こってるのかを見ていきながら紐解いてみようと思います。

 妊娠中の奥さん、もしくはお子さんをお持ちの、男性諸君(私も含めて)、すごい長くなるけどよく読んでみてください。これで女性が妊娠出産で経験することの『一部』ですから。細かいこと言いだしたらキリがないので主要なことを書いていきます。

①妊娠中

 さて、まずは妊娠中に起こる身体の変化からです。まず大きく変わってくるのは、当然お腹の大きさですね。そしてお腹の大きさが変わると、それに合わせるように骨盤の傾きが変わってきます。

 妊娠初期のうちはさして変化はありませんが、妊娠が進み妊娠後期になってくると、骨盤に大きくなったお腹は乗らなくなってきて、お腹を突き出すようになり、骨盤は前傾(反り腰)になります(図①中央)。この状態だと股関節はやや屈曲位(伸びきっていない)になります。このように妊娠中は骨盤の傾きが通常より変化します。​

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図1 骨盤の傾き

​ 本来ヒトの身体は正しい骨盤の傾きの状態で正常に機能するようにできています。骨盤の傾きがここまで短期間の間に大きく変わると筋肉も本来働くべきところが働かず、また逆にあまり使わなくてもいい部分に負担がかかったりしてしまいます。特に前傾が強くなり腰が反ってしまうと腰部での神経の圧迫が起こりやすくなり腰痛の原因となりえます。

 ここまでは骨盤の傾きについてでした。次に皆さん気にされている、いわゆる『骨盤が開く』ということについてのお話です。

​ 骨盤の構造の話から簡単にしておくと、骨盤は左右の寛骨(坐骨、恥骨、腸骨)と背骨の続きの仙骨で構成され(図2左)、前側が軟骨結合の恥骨結合、後ろは寛骨と仙骨が関節を作っています(仙腸関節)。この仙腸関節は構造上ほとんど動かないとされ、強固な靱帯で補強され、さらにその上を強靭な筋肉で覆われています(図2中央・右)。

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​図2

 妊娠3か月前後するとリラキシンというホルモンが分泌されます。このリラキシンが骨盤周囲の軟骨結合や靱帯を緩める働きがあります。分娩時に最大放出され、産後2・3日で大体分泌が止まります。ヒトの場合、特に前の恥骨結合に作用し、骨盤の前側が開くと言われています。後ろの仙腸関節を保護する靱帯も緩みますが、動くほどではないと考えられます。諸説言われていますが、そんなにずれるほど動いたらいくら臀部の筋肉がささえるとはいえ、おそらく立ってられないと思います。なので出産時に蝶番のようになるのではないかなと考察しています。

 ちょっと出産時の話までいってしまいましたが骨盤自体にはこんな変化が起こっています。​

 そしてここからは筋肉のお話。お腹が大きくなるにつれて、当然腹筋群は引っ張られてしまいます。引っ張られれば力は入りずらくなってしまいます。さらに前述のとおり骨盤の傾きが変わります。そうするとこの骨盤の傾きを保つ腸腰筋と呼ばれる背骨(腰椎)から股関節の前を通って太ももの付け根にくっつく筋肉の働きが悪くなります。

さらにさらに、お腹が大きくなるにつれて歩行時のバランスが悪くなり、身体はやや横揺れをしやすくなります。そうすると太ももと骨盤をつなぐ身体の外側の筋肉である中殿筋や大腿筋膜張筋と呼ばれる部分に負担がかかります。骨盤の前傾が強く、股関節が屈曲位(前述)となると、今度は太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)にも負担がかかります。これらの筋肉の不調は腰痛の原因となりますので、妊娠中に腰痛はどうしても起こりやすくなります。

 もう一つ重要なのが骨盤底筋群と呼ばれる部分。文字通り骨盤の底にハンモックのようについ、ている筋肉で、内臓を支えたり、尿道を締めたりするのに働きます。胎児が大きくなり重くなってくると、子宮を支えているこの骨盤底筋群にも負荷がかかり(ハンモックに人が乗ったような状態)伸ばされてしまいます。収縮することで尿道を締めますので妊娠後期には尿漏れが起こりやすくなります。またこの骨盤底筋群は腹筋群や腸腰筋と連動して動いていると考えられています。

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腸腰筋

 さて、妊娠を語るうえでもう一つ重要なことがあります。それはホルモンの影響です。

妊娠の最初の段階では、性腺刺激ホルモンhCGと呼ばれるホルモンが数週にわたって分泌されます。これは妊娠の準備を促し、あとで出てくる女性ホルモンの分泌を促進させます。いわゆる市販の妊娠検査薬で検査しているのがこの性腺刺激ホルモンです。

 次に量を増やすのが、女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンです。これらのホルモンは通常時は交互に分泌され月経に関与していますが、妊娠するとともに増大し、妊娠状態を保持するために働きます。

エストロゲンや性腺刺激ホルモンがつわりの原因と言われています。また妊娠中のほてりや情緒の安定が崩れるのもこれらのホルモンの影響と考えらえています。

 女性ホルモンの分泌量が多くなり、また胎児に栄養を送ることで、髪の毛が増えたり、肌質が変わったり(良くも悪くも)シミや皮膚の黒ずみが出来てしまったり(プロゲステロンがシミの原因となるメラニンを多く産生してしまうため)などのトラブルも起こってきます。

​ 妊娠の後半になると、前述のリラキシンや母乳に関係するプロラクチンやオキシトシンといったホルモンが増大してきます。これらのホルモンに関しては産後のところで書いていきます。

​②出産

​ 長かった妊娠期間の最後、ついに出産を迎えます。陣痛のリズムとか時間はちょっと割愛しますが…

 出産の際にはリラキシンが最大限放出され、子宮頚(出口)や骨盤の靱帯を緩めます。同時に女性ホルモン(主にエストロゲンとプロゲステロン)も極大となり最大放出されます。赤ちゃんは骨盤底筋にある小さな穴を通り抜けますので、当然その穴は大きく引き伸ばされ緩みます。鼻からスイカが出るくらいの大きさの比率というくらいですからね。陣痛を促すホルモンとしてはいろいろ言われていますが、詳しくはわかってないようです。促進剤としてオキシトシンを投与するようですが、身体の中でそれが陣痛を促すスイッチではないようです。

 出産後は女性ホルモンの分泌が一気になくなり、代わりに母乳を分泌するためのプロラクチンとオキシトシンが多く分泌されるようになります。ちなみにオキシトシンは幸せホルモンとか愛情ホルモンともいわれます。

​ 産後については短くなってますが、ものすごい辛い!男性だと耐えられなくて死んじゃうくらい!ということだけ覚えておいてください。

③産後

 さて、このようにして約10か月の妊娠期間と、出産を終えてその瞬間からママになるわけですが、この妊娠出産の負担がすぐになくなるのかというと、当たり前ですがそんなわけはないです。ですので太ももや股関節の外側にはかなりの負担がかかり、腸腰筋や腹筋、骨盤底筋群にはうまく力が入りにくい状態は解消されていません。元の身体に戻っていないどころか、姿勢は崩れてしまい、さらに筋肉の負担はマイナスな状態からのスタートになるわけです。

 そしてその状態で育児が始まるわけですが、赤ちゃんがいるとどうしても立ったりしゃがんだりが増えてしまいます。そうすると太ももの前には負担がよりかかりやすくなります。そうすると腰だけでなく、膝の痛みも出てきたりします。抱っこもありますので、今度は背中の筋肉に負担がかかります。首肩も力が入りますので疲れます。背中の緊張か首肩の負担は腕や手の痛み、腱鞘炎の痛みを増長させる原因にもなります。…そりゃ身体の痛みは治りにくいですよね??

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